バンド救国論

September 8th, 2019

1年ほど前に仕事仲間と勢いでバンドを組んで月一くらいで練習しているのだが、これがめちゃくちゃ楽しい。技術的にはいわゆる”上手い人”は自分も含めて一人もおらず、せいぜい知り合いのパーティで無理やり盛り上げるのが関の山である可能性が今のところ高いのだが、最近わかってきたのは、これは社会を救うのではないか?ということである。

誰でも知ってる簡単な曲のコピーもまあ楽しいのだが、ウチのバンドはたまたまヴァイオリンがいたので、パッヘルベルのカノンをベースにしてメジャーなポップス曲を乗せまくるというアレンジを始めてみた。カノンというのはそのコード進行がめちゃ汎用性が高いので、かなり多くの有名な日本のヒット曲をそのまま乗せることができる。それで色々遊んでいるうちにオリジナルな表現が色々生まれ、異常に楽しくなってきたのだ。

それはそれとして、なぜバンドは社会を救うのか。まず僕はこのところ、高齢者住居には音楽スタジオがなければならないと主張している。これには明確な理由がある。

今から約60年前、1957年にビートルズがデビューした。彼らのヒット作が連発したのは60年代である。エルヴィスも実はほぼ同時期にデビューしている。つまり、1960年代に10代の青春を過ごした世代、まさにこれから70代を過ごす世代の人々というのは、「ロックで青春を過ごした人類初の高齢者」なのである。ここに社会とバンドの関係における重大な意味が存在するのだ。

日本の高齢者施設では様々な「レクリエーション」が行われている。その中のひとつが言わずと知れたカラオケである。歌うのは確かにいいものだ。他によく行われる「玉入れ」や「タケノコ釣りゲーム」などに比べれば人気があるだろう。だが当然ながら、機械の伴奏に乗せて歌うのとチームで演奏するのは全く違うものだ。

なにしろバンドは創造行為である。アレンジもいくらでもできるし、バラバラな状態から少しずつ完成度を上げていく過程の面白さも、バシッと合ってきたときの気持ち良さも、仲間とともにつくりあげる楽しさも、何もかも違う。これからの高齢者たちは、10代の頃の青春の感覚を思い出しながら、頭と体を駆使して創造行為を繰り広げるのである。

こんなことを言うと、若い頃に楽器をやっていた人にしか許されない遊びではないか、バンドで合わせられる技術を持った高齢者などほぼいない!との異論もあるだろう。しかしこれから楽器のテクノロジーは間違いなくすごい進化をとげる。GとかFとかAmと書いたボタンを押して弦を弾けばきれいなコードを奏でることもできるし、メロディを弾けば伴奏もついてくるといったことも可能になる。技のレベルに依存せずにそれぞれのレベルで楽しめるようになるのである。楽器を必死で学ぶモチベーションがわかない人も、リズムくらいは叩ける。

そうして彼らは日常に「もっとがんばろう」「上手くなりたい」「モテたい」といった欲求が芽生え、そして時に人に大喝采を浴びるスターとなる。アーティストとしての自分を認識したとき、彼らの人生の意味は変わる。そして指と頭を使い続けることでボケの防止になり、健康寿命は長くなり、結果的に医療コストも介護コストも下がっていく。そしてバンドはどんどんメンバーやパートを交代して楽しめるため、気づいたら孤独問題、コミュニティ問題も解けていくのである。バンドはまさにこの高齢化社会の諸問題を根本から解決する手段なのだ。

ということで、これからは全ての高齢者住居、CCRC、多世代共生住宅といったものには必ず音楽スタジオとライブスペースを設置することを建築基準法で必須とすべきである。さらに各自治体は全ての高齢者に何らかの楽器を無償で提供することを国として義務付けるべきである。法律になるまでの間、財政難の自治体こそ我先にと先鞭を切って明日にも政策決定すべきである。そして全ての音楽家と楽器メーカーやスクール事業者などは、この市場をめがけて新商品の開発や、コード進行と曲のガイドブック、アプリ、動画共有やレッスンのプラットフォームとコンテンツを開発しなければならない。

日本の殆どの問題は、こうしてバンドによって解決していく。今、僕にはそのビジョンが明確に見えているのである。いやマジで(笑)。

 

*反論として「ならばクラシックだって吹奏楽だっていいではないか。それがこれまで高齢者コミュニティの中でそれほど大きく広がらなかったのになぜロックならできるのか」といったものが想定されるが、それはナンセンスである。もちろんクラシックをやってもいいのだが、ロックの方がゴマカシが効くというのがが一つ。簡単に弾ける楽器が開発されるというのが一つ。そしてじいさんばあさんがクラシックをやっても破壊力に限界がある。高度成長を支えてきたモーレツ世代のエネルギーを、そして彼らを家で我慢して支えてきたご婦人たちの溜まり溜まったエネルギーを、ロックで爆発させてこそ、彼らはその隠れたるマグマで破壊的パワーを発揮し、世の中を変革していくのである。





© 2018 ATSUMI HAYASHI BLOG |
快楽サステナブル Design by The Up!
PAGE TOP