ULIでの話

November 24th, 2017

先日、Urban Land Instituteのコンファレンスで話したことメモ。

ULIは米国ベースの不動産開発&投資の業界団体で、東京のコンファレンスもいわゆる投資ファンドとかの人が中心で、99%がスーツなのはわかってはいたが、我が一張羅のドラえもんコンバースで参加してきた。

外人投資家たちによるこれからの投資マーケットの話(動く金の単位が違いすぎてこの手の話は最近はもうついていけてないのだが)の後、僕らのセッションは、建築家の大江匡さんと、ディベロッパーの日本エスコンの伊藤社長、福岡地所の榎本一郎社長と僕で「ディベロッパーが見る20年後の日本の不動産」というお題であった。おいおい林はディベロッパーないじゃんかという問題があったので緊張したのだが、大江さんだってアーキテクトじゃんということでそこは気にしないことに。

福岡地所の榎本さんは、福岡という都市を強く魅力的にしていく戦略とその中での自社の役割を極めてクリアに考えていた。密度も自然との距離も食も含め、住む働くうえでのバランスや質が高いことを前提に、これから伸びる産業がしっかりした生態系をつくっていくために、ユニコーンを呼び込むのだと宣言。新たな制度をつかって中心部をきっちり開発する話や、OMAの重松さん設計のビルの話など。大きくなった後のユニコーンだけ狙っても厳しいから予備軍も呼ぶと。そのための環境をつくったからといって次々にやってくるほど甘くないが、びびっていたらはじまらない、そこのリスクは自らとるのだというディベロッパー魂は、さすがこれまで数々の面白い開発をやってきた福岡地所だなと思った。一郎さんとは10年以上も前、まだお互い30台前半だったころに仕事もご一緒し、夜は中洲をさまよって仕上げはマンゾクcity(検索しないでOK)に行くべきか否かを議論した仲だったような記憶もあるが、すっかり立派な事業家になり、これから彼が福岡を本物のマンゾクcityにしていくのだなと思った次第。
日本エスコンはマンションやホテルの開発を力強く進めている会社だが、伊藤社長は会った瞬間からこの人のことを嫌いになる人は絶対いないだろうなと思えるような温かさと器を感じさせる人であった。お話も、僕のように斜に構えることなく極めて真摯な経営者らしい話で、なるほど大きな事業を回していくディベロッパーのボスはこういう魅力が必要なんだなと思った。

大江匡氏は、もうだいぶ前にアトリエポジションからは距離を置いて、企業の事業課題を空間設計や関連サービスで解決していく組織事務所をつくった人である。最近増えまくっているファーストキャビン(いわば贅沢なカプセルホテル)の経営に加えて、さらにソフト寄りの飲食事業を始めるという。彼が語っていたのは、時代はどんどん変わり価値の在りかがどんどん変わるという話。汐留が開発されたのは、かつて船と電車でモノを運んでいたのが車に変わり、操車場がいらなくなったから。そういう時代なのに政府行政は縦割りで、それゆえに仕組みがスタックしていると。さらには相続税は自分の住む家の資産にはかけないで他の投資だけ課税するべき、等の話も。そのスキのない現実的な思考はさすがにおそるべしであったが「僕、林さんとこのtoolboxが好きでね、けっこう使ってるよ」と言われたのは意外で、嬉しかった。

僕は、某メディアのbest city rankingで東京が一位だったのがあって、そこのビジュアルが歌舞伎町だった話から、都市間競争力とかいって容積ばかり増やすんじゃなくて多様な顔を持つように誘導する政策をもっと持つべきで、そうしたことはきっと行政も理解が進むから変わっていくだろうし、ディベロッパーも自らそうしたシフトを制度的にも提案しながら自らのビジネスチャンスにタイムリーに取り込んでいくべきではないか、みたいな話をした。それから、都市計画の世界はテクノロジーの先読みが弱いから、そこを突くことに差別化機会があり、同時にそういう動きが社会システムをも前進させていくんじゃないかといった、ある意味では肉食側のポジションの話をしたのだが、僕としてのここでのスタンスは、金を動かす人たちがその資本を増やす行為の過程において、それが街を壊すようなかたちでなく、良くするような手段を打つことによって利益を生んでいってもらうためのアイディアやメッセージを発したいというものである。

この記事(http://www.rules.jp/detail.php?id=14)でも書いたように、ディベロッパーなどの事業主体が政治論理にも行政大義にもはまるような社会改善になる新たなモデルやルールを自ら提案しながら、一歩先をいく仕掛けによって自らアービトラージをとるような戦略は、企業と社会が共に前進する健全な姿ではないかということを話したりした。

そして榎本さんの福岡の話から思ったのは、福岡クラスの都市がこれから文化的にも豊かに続いていくにはハイテク寄りの新しい産業集積によって経済を回すのが正しい(というかそれしかない)のだろうということとともに、よりフォーカスした観光資源を生かして外来者への価値提供に力を注ぐのが適切な都市もあるし、それとは全く別の戦略で、小さく強く生き残るスモールストロングな持続性を追求する街もあるということ。

また、人々の感覚の変容の話として、リノベの購買層はもうかなり広がっているという話や、これからのユニコーン企業の人たちはもはや重厚でエスタブリッシュな空間に惹かれないだろうとか、そういう話をした。そして、不動産屋が不動産(ハコ)だけやって上場維持(→安定成長)し続けるなんてもう幻想なのだとか、かといっていきなりコンテンツも大変だから徐々にやるとして、wewokのような「ミドルウェア」をやっていくんじゃないかとか、そういうことを話した。もちろんこんな「言うは易し」な抽象論をふりかざすだけでなく、やって見せていかなきゃ、ということは自覚しつつ。





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