都市デザインの話

April 25th, 2017

以下、ハーバードGSDの会議で話した内容。
東京をどうデザインするか、についての視点。主に建築家へ向けて

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僕は大学で建築設計を学んでいたとき、こう思いました。東京の殆どの建物は賃貸不動産あるいは分譲住宅など「プロダクト」としての建築でできていると。そしてそれらがあまり美しくない風景をつくっているのは、デザイナーのせいではなく、ビジネスの都合なんだろうと。そこで、なぜこうなるのか、構造を知りたいと思い、卒業後は経営コンサルティングの会社に行き、その後ニューヨークで不動産開発を学び、 日本のディベロッパーでファイナンスをやってから、2004年に起業しました。そのテーマは、日本の都市空間を人間的で色気あるものにすることで、機を見ながら色々な方法でそれをやろうということでした。

僕は都市の風景をつくっているのは3つの力だと捉えています。資本、技術、そして人間の欲望です。資本の動きと市場のルールが、人間の欲望を反映しながら建設行為を規定していきます。技術は生活のあり方を変え、人の欲望を変え、都市の形に影響を与え、同時に技術は資本を増やします。この3つのドライバーの総体を、我々はマーケットと呼びます。

この力学に縛られないピュアでポエティックな創造行為は、あるべきだと思います。ですが都市というレベルで語るならば、この3つの力に関するリアルな肌感覚、一定のリテラシーがない限り、都市の未来の姿を描くことは、不可能です。東京は、特に市場の力が強い都市であるにもかかわらず、日本の多くの建築家は、資本の力を”批判”し、テクノロジーにもさほど興味はなく、欲望はといえば3%の意識高き文化人の欲望について語る、といった状況があります。ゆえに残念ながら、日本の都市のデザインにおいて建築家は本来持ちうるはずの影響を及ぼさず、もったいない状態にあるのだと思います。

マーケットは現実の「与件」です。それを多少読み変えることはできますし、それに多少の影響を与えることはできますが、敵視したところで意味がないものです。資本主義システムがひっくりかえるのは恐らく早くて30年くらい先でしょうから、現実の力学を受け入れよく理解した上で、作戦を練る必要があるわけです。

マーケットがつくり出す都市をデザインする大事な手段の一つは、ルールをデザインすることです。マーケットは、長期的な全体の幸福を生むためには不完全なので、ルールは当然に重要です。都市というのは、一定のルールの上で、マーケットの力学でオートマチックにつくられていくのです。ディベロッパーもそのルールを忠実に守って一生懸命ミッションを果たす努力をしていると思っています。彼らが利益を出すと、株やファンドの利回りが上がり、それを持っている生保や年金のお金が増え、つまりは我々の資産が増えます。そのようにして資本のゲームに我々も参加している構造があります。よりよき都市をデザインするならば、ルールのデザインに我々はもっとこれに主体的に関わるべきであると思うようになりました。

さて、東京についての話ですが、東京はそもそもハイブリッドな都市として捉えたらよいと思っています。これはつまり、欲望の多様性を許容していくということです。そして一人一人も、その時々によって欲しいものが違います。

東京には、アトムな風景つまりメガ開発的な風景と、ジブリな風景つまりヒューマンスケールで懐かしい風景が混在するという見方があります。これは三浦展さんの言葉です。これらが共存、混在しているという状態は、欲望の多様性を表しているともいえます。この状態が面白い、そして幸福なんだというポジティブな捉え方です。
ともかく東京には、オルタナティブな、つまり隙間的な空間も残していくべきだと思っています。

「東京R不動産」という事業は、そのための戦略的アクションでもあります。東京R不動産は、化ける可能性のある倉庫や古いビルを発掘して、ネットで紹介するメディアですが、ビジネスとしてはそれらをユーザーに仲介する不動産エージェント業です。 ネットを使ってニッチな空間をニッチな人とつなぐことで、オルタナティブな空間の埋もれた価値を顕在化し、それらの空間を残そうということです。そしてポップな表現方法で幅広い人々に対してオルタナティブな価値観を伝え、一石を投じるものです。これまで6000件を仲介し、毎月数十万人が訪れています。 ここでは物件を、スペックでなく個性・キャラクターで評価しセレクトしています。我々がデザインするのではなく、そこにある空間の可能性を拾って、あとはユーザーに委ねるという考え方です。

つまりこれは流通から都市をデザインするものです。流通のあり方がモノの価値を変え、価値観にも一石を投じ、都市を少しずつ変えていくというわけです。流通のデザインも、都市デザインの一方法であるということです。

我々は建築や街を企画しデザインするプロダクションもやっています。 ここにおいては、経済価値と文化価値を融合共存させる解をつくることがテーマです。 特に日本では、クリエイティブであろうとなかろうと、マーケタブルなもの、市場性のあるものは繁殖していきます。マーケタブルでないものは、繁殖しないか、ひん曲げられて繁殖するかどちらかです。だから、これらを両立させたモデルを考えて提案開発しようということです。そして独自の流通を自ら持って組み合わせていくということをしています。

「toolbox」はリノベーションや内装のためのECです。大手メーカーの大量生産ではつくれないような、個別性や質感を持った素材やパーツ、職人サービスといったアナログな手段を、ネットで売っています。toolboxでは、建築と家具の間、デザイナーと職人の間、リノベーションと模様替えの間、オーダーメイドとレディメイドの間、といった隙間の領域に着目しています。テーマは、編集権をユーザーに移転させていくこと。ユーザーの自主性を促し、愛着という価値を増幅していくこと。この先は、データベースやデジタルツールも入れていこうと考えていますが、それはアナログな価値を増幅するためです。toolboxはある意味で、インテリアから都市生活における空間体験をデザインしていくための仕掛けと言えます。

都市をデザインする方法は、ゲリラなアクションも、プロトタイプとなる空間や場のあり方の開発も、パブリックスペースのデザインも、そしてルールのデザインも、流通も、さまざまなインターフェースをつくることも、含むものだと考えています。

今、ルールすなわち法律や条例、その運用のリデザインについて考えています。 例えば横丁の空間は本来、都市の経済価値にも一役を買う資産ですが、資本の力学としては高層開発に取って代われる宿命があります。これを残すための方法は、例えば東京駅でやったように、容積移転を適用できるようにすることと思ってます。そのように、経済と情緒を調停するためのルールのデザイン仕掛けていくためのメディアをいま準備しています。

ここからは、東京の都心の未来についての話です。まずはオフィスビルの話。かつてオフィスビルはいわゆる自社ビルでした。これが賃貸ビルとしてフロアごとに貸されて所有と利用が分離しました。このさきさらにビジネスや働き方が流動化すると何が起こっていくか。新しいタイプのワークスペースプラットフォームのようなものがでてきつつあります。一つの状況としては、ミドルウェアとでもいうべきプレーヤーが出てきて、彼らは丸ごと借りたビルの中に都市をつくります。保育所もバーやプールもできます。これの筆頭が2兆円の企業価値と言われ、ソフトバンクが3000億を投資したWeworkです。今は彼らはフリーランサー向けのコワーキングスペースの運営会社と思われていますが、彼らは去年あたりから、大企業を顧客とし始めています。 大企業はこれらの中にフロアごとでも気軽に入ったり出たりすればよく、内装工事も原状回復工事も、その都度やる必要はありません。 そうしたミドルウェア、OSのプレーヤーが、新たなmixed useを編集していきます。

商業はどうなるか。ショッピングがネットにどんどん移っていくと、小売業者たちは今のような家賃を出せなくなるので 路面賃料が下がります。するとカフェは路面に戻ってきます。残るリテールスペースは、ECのためのショールームのような場所となり、やがて飲食などとも融合してエンタメスペースとなっていくでしょう。それが渋谷や銀座を占拠します。

そして自動運転が当たり前になると、おじいさんやおばあさんも郊外のモールに楽に行けるようになっていきます。 今からウォーカブルシティをやるならば、それをどこでどうやるか、よく考えなければいけません。センサーやデバイスやAIが進化すれば、風景は固定された建築群ではなく、動き続けるものになり、体験の選択はどんどん最適化されていきます。

何が言いたいかというと、デザインの対象が、フィジカルからコンテンツ、インターフェースやOSになっていくということです。人間的で幸せな世界をつくるためにそれをどうデザインするか。資本や技術の力学と、多くの人々の欲求をイメージした上で動いていく必要があります。

そもそもすでに人々は、都市を建物によって認識していません。店や体験といったコンテンツと、パブリックスペースで認識しています。 そしてこれからの街は、機能よりも快楽(喜び)をつくることで生き残ります。ただそれは建築の快楽でなく、コンテンツの快楽とパブリックスペースの快楽です。新しいアーキテクトとは例えば、マーケットに対峙してコンテンツをデザインしてつくりあげるチームであるかもしれません。

携帯電話のフォルムをデザインしている時代は終わり、インターフェースとビジネスシステムをデザインしていく時代です。そこには「アーキテクト」が活躍できる大きなフィールドがあると思っています。僕は建築家たちの想像力を、都市デザインにもっと発揮してほしいと願っています。文化と利便をバランスよく維持しながら本当の長期全体最適を実現する、ハイブリッドで幸福な都市をつくっていきたいと思います。

まだまだやってないことが山ほどあります。
東京はめちゃくちゃ面白い街になれる可能性があると思います。

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  1. レッシグの人間の行動を規定する4大要素との関連を見出しました。それによると法・市場・規範・コードが人間の行動に影響するそうですが、それを逆手にとって、それらを(ハイブリッドに)使って、実践されているようにお見受けいたします。

    中盤で仰られている、法律ですが、市場と規範(情緒を意訳しました)を軸に、法に影響を与え都市に介入するハイブリッドな方法はとても効果的に思います。法(法律だけではなくルール、取り決めあるいはプロトコル)としての都市の形作り方ですが、強力な分だけ、(直接)民主的な方法で法を扱うとなると、影響を及ぼすスケールが重要に感じます。東京駅の例に見られるように仰られているのが総合設計の範疇のようですが、こう言うスケールで市場と規範をどう捉えられているのかとても興味があります。

    特に、社会の単位がこれ以上わけることが出来ない”個人(individual)”と思われていたものから、サービスの数だけアカウントがある、分人”dividual”となるとより複雑ですが可能性が大いにあると思います。

    April 27th, 2017 酒井 康史
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